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あまり抑揚のない声で、指導者と呼ばれる彼がその口を開いた。
皆が彼の声に耳を傾ける。
全くと言って良いほど音一つしないその空間に、彼の声が響くのを皆は待った。
少し経ってから、指導者は次の言葉を口にした。
「・・・彼女に、愛想を尽かされてしまったよ」
その言葉は、決してふざけたものではない。
皆がそれの真意をすぐに感じ取った。
そしてその瞬間、皆が憤怒とも哀れみともつかない表情を浮かべる。
「・・・彼女の、処遇は?」
鋼色の鎧に身を包んだ青年が、少し不安げに聞く。
皆、指導者の返答を待った。
「・・・そんな事、聞かないでくれないかな」
指導者が、その一言を呟いて、そしてうなだれた。
しかし、彼のその返答の真意すら、皆には伝わってしまっていた。
「・・・いいよ。俺が責任を負う。」
指導者のその言葉に、皆が驚き、顔を上げる。
かすかに微笑みながら、彼は虚ろな眼のまま言葉を繋げる。
「・・・皆には辛すぎる仕事だと思うし、俺も辛い。
でも・・・彼女は俺の責任だ。俺が全て・・・引き受ける」
「・・・しかし・・・それではお前にだけ・・・」
「何も言わないでくれないかな」
友の言葉をすぐに遮る彼の様子を見て、皆がその決意を悟った。
そして皆、彼を気遣いつつも部屋から出て行った。
部屋が彼一人となり、皆が部屋から出て行った。
彼だけが、自分の椅子に座っている。
そのことを悟った時、彼はついに崩れ落ちた。
「・・・できれば・・・こんな事にはならないで欲しかったなぁ・・・」
彼以外、誰もいない空間の中。
静寂にかすかに反抗するのは、涙の落ちる音だけだった。
どんな運命が待っている日も。
朝は必ず、いつも通りにやって来る。
指導者がその部屋に入ると、皆はもう既に準備が出来ていた。
皆は、彼を温かい眼差しで眺める。
「・・・皆、早いな」
「アンタが遅すぎるんだよ」
「・・・そうか。ごめん」
憎まれ口を叩く白い鎧の男に笑顔で返し、準備を進める。
そして最後にペペ・クロズを装着し、振り向く。
そこには、友たち。
今の今まで、こんな自分についてきてくれた、掛け替えのない仲間。
「・・・行こう」
「ありがとう」の代わりに口にしたその言葉。
やはりその真意すら読み取ってくれた友たちが、頷いた。
久しぶりに、地上に出る。
ザンジェル地方のはずれとはいえ、豪雪地帯である。
吹雪が舞い狂っていた。
少し強く冷たい風を浴び、深呼吸。
遙か遠くに見える空を見つめ、彼は歩き出した。
そしてそれに呼応するかのように、皆も足を進める。
さぁ、始めよう、みんな。
運命に抗い、幸せを掴み取ろうじゃないか。
「始動」完
「・・・失礼するよ」
扉が開いて、灰色の鎧の男が入ってくる。
突然姿を見せた指導者、そして友人に少々戸惑いつつも笑顔を見せる男。
彼の鎧は、重圧感のある紅色に染まっていた。
部屋の丸桶の中で、炎がめらめらと燃えさかっている。
その部屋の中もまた、廊下と同じく銀色の模様が走っていた。
「・・・とうとう、ウチのお得意さんが潰れた、とよ」
「・・・そうか」
紅の仮面から覗く黄緑色の眼が、その返答と共に炎に目を向ける。
ゆらめく炎の色は、彼自身の鎧同様に真っ赤だった。
そして彼のその目には、対照的にゆらめく赤が写っていた。
「・・・『彼ら』も巻き込んでしまったな」
「・・・すまない、とは思ってるよ」
『指導者』と呼ばれる彼の紅色の眼は、炎を見つめ続ける友から目をそらした。
そしてそのまま天井へと視線が移り、そして虚空を捉えた。
しばしの沈黙の後、彼が口を開いた。
「・・・そろそろ・・・動こうかなと思ってる」
「・・・何?」
「・・・もうこれ以上、仲間を巻き込む訳にはいかない。
・・・俺達自身が動かなきゃならないと、思い始めたんだよ」
その言葉を聞いて、紅の男は部屋の奥へと歩き出した。
炎に背を向け―――その背中を次第に友から遠ざけながら、男は言った。
「・・・そうかもしれんな。
・・・いざ動こう、友よ」
『指導者』が部屋から出て行った頃には、炎は既に残り火となってしまっていた。
静寂の空間の中で―――残り少ない命を喘ぐカゲロウの如く、か弱き音を立てて。
「陽炎」完
そこは、とある施設。
地下深くに存在しているそれを知る者は、殆どいない。
ましてや、その日の光すら届かぬ空間に「彼ら」が存在していることなど、誰も知る由もなかった。
漆黒の鎧に身を包んだ男が、その施設の廊下を歩いている。
廊下の壁は、彼の鎧同様に黒く、その上に銀色の幾何学的模様のようなものが走っている。
「ほぼ」無音状態の中で、彼の足音だけが廊下に響いていた。
その「部屋」に入ると、部屋の中央に灰色の鎧を纏った別の男がいた。
彼の紅色の眼は、部屋に入ってきた男に気がつくと、すぐにこちらを向いた。
「・・・報告、かな?」
彼の、感情豊かな声が部屋に響く。
彼がこの「組織」の指導者であることを、まるで忘れさせるような、優しい声。
「・・・例の代物を、渡してきました」
男の声は、自身の黒き鎧のようにずっしりとした重みを備えていた。
「・・・ああ。お疲れさん。休んでていいぜ」
優しい声に促され、頷いて踵を返す男。
一礼してから部屋を出て行った。
そうだ。
こういう人だから、皆彼についてきたんだ。
そして、こうやって、皆彼についていくんだ。
男は自分の指導者に、不満は少しも抱いていなかった。
彼が皆の指導者として、あくまで「皆の為に」動いていることを解っていたから。
そうだ。
こうやって―――。
男の姿が視界から消えた。
再び静寂が訪れた部屋で、彼はその紅色の眼を天井に向けた。
「・・・もうすぐ・・・もうすぐだからな、皆」
その優しくも、憂いを含んだ深い声は、再び静寂に飲み込まれていった。
「静寂」完
いわばこの物語自体が続編への伏線ですね。
・・・俺は、時々思う。何故自分はここに存在しているのか、と。
この世に神がいると仮定して、その神は何故俺をこの世に創り出したのか。
俺がもしマトランだったなら、この世界のバランスのほんの一部の部品として創り出されただろう。
俺がもしトーアだったなら、そのバランス達を守る警護役として創り出されただろう。
俺がもしツラガだったなら、前者二つの実質的指導者として創り出されただろう。
しかし。
俺は、その三つのどれでもない存在。
いや、どちらかといえば「近い」存在なのだ。
特に――――「トーア」に。
今ここにいる皆もそうだ。
彼らもまた、「人に近い存在」。
この俺と同じように。――いや、ある意味全く同じと言っても過言ではないだろう。
思えば、「人に似て非なる者」である俺たちには、初めから幸せを得る権利などなかったのかもしれない。
ここにいる、俺を含めた皆は、そんな落ちこぼれの集団。
この大陸に俺たちの場所は無かったが、それでも俺たちはこの辺境の辺境とも言うべき場所にいる。
それが、俺たちのできる最初の抵抗だったから。
スピリットとかいう者達に、いつか面と向かって言ってやりたい。
「まだ人間であるだけマシだと思え」―――と。
さぁ、始めよう、みんな。
法則に逆らい、そして幸せを掴み取ろうじゃないか。
―――そう。せめて・・・人並み以下の。
「存在」完